コラム
03/2025
医療機器の発展に貢献するフッ素材料
疾病の診断や治療に医療機器は必要不可欠であり、今後もグローバルで高い成長が見込まれます。医療機器の進化は患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上し、フッ素材料はその発展に重要な役目を果たしていきます。
1. 医療機器産業発展の重要性
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医療機器の進化は医療の発展には欠かせない要素です。医療行為の中でも手術は最も大きな侵襲(身体への負担)を伴う治療の一つですが、従来の開腹手術に比べて、先端治療機器、つまり内視鏡やカテーテルを用いた身体への負担をなるべく低くする低侵襲治療の発展は患者のQOL向上につながります。
特に心血管疾患や脳卒中などの治療において重要な役割を果たす極細径のカテーテルや、ロボット支援による微細な手術、患者が自宅で継続的に健康管理を行えるようにサポートするウェアラブルデバイスやリハビリ機器など、市場のニーズに応える技術革新が進んでいます。
また、滅菌技術の進化も重要な役割を果たしています。医療機器の安全性を確保するためには、徹底した滅菌が不可欠です。従来の方法に加え、新しい滅菌技術の導入が感染リスクの大幅な低減に貢献しています。
2. フッ素材料の特長と医療機器での採用例
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フッ素材料は優れた摺動性やクリーン性、化学的安定性、生体適合性を有し、これまでも多岐にわたる医療機器で重要な役割を果たしてきました。*1
1)高い摺動性
低侵襲治療の代表ともいえるカテーテル手術に用いられるカテーテルやガイドワイヤーは、治療用デバイスを患部に的確に到達させるため、高い摺動性が必要となります。様々な樹脂材料の中で最も低い摩擦係数を持つPTFEはカテーテルのライナーチューブやガイドワイヤーのコーティング材料として広く採用されています。
2)クリーン性
フッ素樹脂は可塑剤等を含まず、化学的に非常に安定しており、溶出物がほとんどありません。また非粘着性にも優れるため、クリーン性が求められる薬液バッグ等の包装材や薬栓の接液部等に使用されます。さらに、低温特性にも優れる事から細胞や組織を極低温で保存する凍結保存容器への使用も期待されています。
3)高い耐薬品性
フッ素材料は様々な溶媒や酸、塩基などに対する優れた耐性を発揮します。そのためフッ素ゴムは、次亜塩素酸ナトリウムなど腐食性のある透析液や消毒液を用いる装置のシール材や、使用後の耐消毒液性や過酸化水素ガスに対する耐久性を必要とする内視鏡などのリユースされる医療機器の可動部に使用されています。また基材保護を目的としたフッ素コーティングの採用拡大も見込まれています。
図1. フッ素材料の用途例
3. 安定供給の取り組み
優れた特長を持つフッ素材料は、人命を救うために必要な医療機器にとって不可欠な存在となっています。一方、医療機器は開発から商業化までに非常に長い期間がかかり、認証後の仕様変更も厳しいため、安定した材料供給が求められます。当社ではフッ素材料のグローバルリーディングカンパニーとして、持続可能な生産活動に取り組む事で、ライフサイクルを通じて環境負荷を最小限に抑え、今後もお客様に安心してご使用いただける製品の供給に務めていきます。またフッ素材料の研究開発にも継続的な投資を行っており、市場のニーズに沿った製品開発にも取り組んでまいります。
(ご参考 >サステナビリティのページ)
4. 医療機器のトレンドやニーズに対する新たな価値のご提案
医療機器は今後、「更なる低侵襲化」「ウェアラブル化」「AI化」などの様々なキーワードのもとに進化を続けていくと考えられます。
例えば、更なる低侵襲化には、より細く、薄いカテーテルチューブが求められます。当社では、このようなニーズに対応するため、より成形性の優れるフッ素樹脂を提供しています。また、新しいカテーテル材料として、これまでフッ素材料の課題であった接着性を改良し、フッ素樹脂とポリアミドなどの材料をダイレクトに接着した複合チューブや、ダイキン独自の混練技術によりフッ素樹脂をPEEK樹脂に分散させ、柔軟性・屈曲性・強度・滑り性を兼ね揃えた新しい複合材料を用いたチューブの開発・提案にも取り組んでいます。
1) EFEP/PEBA(ポリエーテルブロックアミド)複合チューブ
・EFEPは官能基を有する接着性フッ素樹脂です。接着層を必要とせず、他材との積層成型が可能となるため、加工工程の削減に貢献します。
・接着層を無くす事により、チューブ外径の小径化や、内腔の拡大が可能です。
・EFEP(RP-5101)は生体適合性試験(USP Class Ⅵ)をクリアしています。
図2. EFEP/PEBA複合チューブ
〇特長
・耐薬品性
・チューブ内層の摺動性
・生体適合性
・柔軟性
〇メリット
・エッチング工程の削減
・EFEP-PEBA間の強固な接着性
・カテーテル製造工程の簡略化
・生産性の向上
・層間剥離の防止
2) PEEK/フッ素樹脂複合材料を用いたチューブ
・PEEK/フッ素樹脂複合材料(開発品)は機械強度、耐熱性、生体適合性に優れる PEEK樹脂に、フッ素樹脂の特長である柔軟性、摺動性を付与した複合材料です。
・PEEK樹脂と比べ、より柔軟性や屈曲性に優れたチューブが成型可能です。
・また、フッ素樹脂に比べ耐摩耗性が向上し、ワイヤーやチューブ内部の洗浄ブラシ等との摩耗耐久性が向上します。
図2. フッ素/PEEK複合材料を用いたチューブ
〇特長
・柔軟性と強度の両立
・屈曲性に強く、割れにくい
・摺動性
〇メリット
- ・PEEKチューブの割れやすさや硬さを改善
- ・フッ素チューブに対して耐摩耗性が向上
ダイキンは、これまで2,000以上のフッ素化学製品を生み出してきた技術力を活かし、医療機器の新たなニーズに応えるため、今後もお客様と共に新製品の開発に取り組んでいきます。
ご興味・ご関心がおありの際は、お気軽にお問い合わせください。
*1:材料としての性能を示しますが、医療機器としての性能や安全性を保障するものではありません。ご使用においてはお客様自身でのご評価とご判断をお願い致します。