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Technical column lithium-ion battery Vol.01

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連載コラム

08/2022

【電池材料】第一回 リチウムイオン電池とフッ素材料

鈴木孝典

株式会社スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティング

【連載コラム:電池材料】リチウムイオン電池材料の開発に長年携わり、現在は(株)スズキ・マテリアル・テクノロジー・アンド・コンサルティングで電池材料のコンサルティングをされている鈴木孝典氏に、電池材料の市場トレンドや開発動向についてご紹介いただきます。第一回目は「リチウムイオン電池とフッ素材料」をお届けします。

1. リチウムイオン電池の歴史

1985年に吉野彰博士が基本概念を確立した事に始まるリチウムイオン電池は、現在、巨大な市場となって通信、移動体、環境などはもとより、広範な分野で活用され、拡大の一途を辿っている。吉野博士はこの功績により2019年にノーベル化学賞を受賞されたことは言うまでもない。


そして、ソニーが初めて市場投入したのが1991年である。リチウムイオン電池が我々の前に現れた時点では、ノートパソコン、携帯電話、ビデオカメラ、デジカメなどのモバイル機器に搭載されていた。リチウムイオン電池は小型、軽量、高容量という特性が最大の長所である。リチウムイオン電池がなければ携帯電話、スマートフォンの市場は全く違った形になっていたであろうと思われる。


近年、自動車(EV、HEV、PHEV等=xEV)、電力貯蔵、産業機器、航空機、列車等に用途が広がり、電池のサイズも大型化してきている。その30年の歴史はひとえに容量・出力密度の向上、コストダウン、安全性の維持・向上の歴史といってよい。

2. 液系電池の開発トレンド

電池について変わらず期待される特性は、大容量密度、高出力密度、軽量、安全、安価である。特にリチウムイオン電池では「高容量バッテリー」としての期待から、大容量であることが最優先にされてきた。とはいえ、他の性能がどうなってもよいわけではなく、要求特性のバランスをとったうえで、容量を上げるという開発が進められ、今日の性能を獲得してきた。


開発は、材料、設計、生産のそれぞれの次元で行われてきた。材料としては、四大材料(正極、負極、電解液、セパレータ)の開発だけでなく、多くの副材料についても電池の性能を上げるための開発が要求され、そのハードルをいくつも超えてきた。

図1. リチウムイオン電池の歴史

リチウムイオン電池の開発ロードマップ

2-1. 正極

正極では、活物質に含有するリチウム量を増加させる、電圧を上昇させることで容量を大きくする開発を行う一方で、レアメタルであるコバルトの低減、ニッケルの低減、易入手性材料だけでの設計といったコストダウンと材料供給安定を進めてきている。

 

2-2. 電解質

電解質は正極の高電圧化に合わせて耐電圧の向上、負極の安定動作のための添加剤の開発・選定、溶媒の選定と組み合わせての検討を進めてきている。電解液は可燃性の有機溶媒を使うことに起因してリチウムイオン電池は「燃える」という大きな問題を抱えている。電解液の不燃化は非常に大きなテーマであり、その延長上に出てきた解決策が固体電解質を使った全固体電池だ。

 

2-3. セパレータ

セパレータは安全を確保する上で非常に重要な材料だ。一方で、電気を溜めるという役割には寄与しない。そのため、安全性を確保した上で、出来るだけ薄くしたいという要求が常について回る。セパレータの開発は、この安全性と薄さの両立だと言ってよい。さらに、正極の高電圧化への耐性が加わることになる。

  

2-4. 負極

負極では高容量化を進めるため、シリコン系、スズ系などの金属酸化物材料を添加する方法や、リチウム金属をそのまま負極に使う方法などの開発が進められてきている。

 

2-5. バインダー

正極バインダーはリチウムイオン電池登場以来、PVdF系材料が長きにわたって使い続けられている。高分子量化、官能基の導入などの改良を加えつつ、それでも主たる材質はPVdF系のまま変わらずに来た。

 

2-6. 導電助剤

導電助剤はカーボンブラック系の材料が長年使われてきた。しかし近年、低コスト化を背景に、多層CNT、単層CNTを使用したものが市場投入されるようになってきた。気相成長カーボンが使われているものは過去にも存在したが、一般的な導電助剤としての利用実績が出てきたことは大きな進歩と言えそうだ。CNTは分散液として供給されることが多い。 

3. ダイキンにおける材料開発

ダイキンでは長年のフッ素化学の経験を武器に、リチウムイオン電池向けに、バインダー、電解液用添加剤・溶媒、CNT複合バインダー分散液、ガスケット材料などを展開しており、リチウムイオン電池の性能向上と安全性確保に貢献してきている。

図2. ダイキンの電池材料

ダイキンの電池材料

3-1. フッ素化学とリチウムイオン電池の関係

フッ素化合物やフッ素樹脂は一般に化学的安定性が高いことで知られており、リチウムイオン電池用途でも多くのフッ素材料が使われている。特に電解質とバインダーは、リチウムイオン電池材料の中でも、フッ素でなければ高性能な電池が作れなかったというほどの陰の立て役者だ。


リチウムイオン電池の電圧は、最高で4.6Vにも達する。正極の電位が非常に高いことが要因だが、このような酸化雰囲気下で安定して性能を維持できる材料は、フッ素化合物をおいて他にはわずかしかない。特に正極の電極内に存在するような電解質やバインダーは強い酸化雰囲気に晒され、極めて高い安定性が求められる材料である。

 

3-2. バインダー

ダイキンではPVdFに独自技術で改良を行い、電極の柔軟性改善、高密度化、ゲル化防止などの機能を付与できる新規バインダー「NEOFLON VT-475」をラインナップしている。また、固体電解質用のバインダーやドライプロセス用のバインダーなども開発中である。

 

3-3. CNT分散液

ダイキンのバインダーをベースとして、単層CNTとバインダーを組み合わせたバインダー含有導電助剤分散液「NEOFLON VTD-475N」の開発を進めてきている。優れた導電性を電極に付与しつつ、ダイキンのバインダーのもつ性能を電池に付与できる製品として期待されている。

 

3-4. 電解質(添加剤)

電解液中でその機能を補助する目的で添加される添加剤としても、ダイキンはフッ素系電解液添加剤を開発している。これもフッ素系材料として、電池の中でのコントロールされた反応性と安定性を兼ね備え、電池性能の向上に寄与する優れた材料である。

 

3-5. ガスケット材料

角形リチウムイオン電池の端子周りはガスケットによって封止されている。円筒形の缶も正極端子部と缶体はガスケットによって絶縁・封止されている。これらガスケットは端子と缶体の絶縁と、缶内の有機電解液に直に接触するため、化学的安定性、カシメによるクリープ耐性が同時に要求される。

ダイキンのフッ素樹脂「NEOFLON PFA」はこのような要求特性をクリアし、ガスケット材料として高い評価を得ている。


フッ素化学を長年やってきたダイキンだからこその材料開発が、最先端のリチウムイオン電池の性能改善と、それを利用した環境保全に大きな役割を果たすことが可能である。今後も、フッ素材料開発を通しての社会貢献に期待したい。

製品情報

Specialty products

電池材料

ダイキンの強み
・フッ素技術(合成、重合、設計、分析)を活用し、ニーズに応える機能材料の提案:樹脂、コーティング、添加剤などの幅広い提案
・電池評価(セル作成~充放電3000チャネル以上)
・テクニカルサービス:配合指導などでユーザーサポート充実(中国、日本)

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